近年の開発現場では、市場や顧客ニーズの変化に柔軟かつ迅速に対応できる「アジャイル開発」の重要性が高まっています。
本記事では、アジャイル開発の概要を、従来のウォーターフォール開発との違いも踏まえて解説します。また、アジャイルの代表的な手法であるスクラムや、導入による主なメリットについてもわかりやすくご紹介します。
【目次】
アジャイル開発とは?
アジャイル開発とは、「企画 → 開発 → テスト → 改善」のプロセスを、数週間〜1か月程度の短いサイクルで繰り返し実行する開発手法です。
最初にすべての要件を確定させるのではなく、開発と並行して改善を重ねながら進めることを前提としており、変化するニーズや仕様に柔軟に対応できる点が大きな特徴です。
このアジャイル開発は、2001年にアメリカ・ユタ州の17名の技術者たちが提唱してた「アジャイルソフトウェア開発宣言」にて定められており、以下のような価値観に基づいています。※1
- 対面コミュニケーション
個人同士の対話を通じて相互理解を深めることで、よりよいチームが作られる。 - 実働検証
動くソフトウェアを使って繰り返し素早く仮説検証をし、その結果から学ぶことがよりよい成果を生み出す。 - 顧客とのWin-Win関係
お互いの立場を超えて協働することにより、よりよい成果と仕事のやり方を作ることができる。 - 変化を味方に
顧客のニーズやビジネス市場の変化は事前計画を狂わす脅威ではなく、よりよい成果を生み出す機会と捉える。
※1 出典:独立行政法人情報処理推進機構「アジャイル領域へのスキル変革の指針アジャイルソフトウェア開発宣言の読みとき方」
アジャイル開発が注目された背景
アジャイル開発が注目されるようになった背景には、従来の開発手法、特に「ウォーターフォール型開発」では対応しづらかった変化の激しい市場の存在があります。
現代の市場では、技術トレンドや顧客の嗜好が目まぐるしく変化するため、数ヶ月から数年といった長期にわたる固定的な計画では、完成した頃には市場のニーズと乖離してしまうリスクが高まりました。
このような環境下で、ユーザーの声を迅速に反映することが求められるため、アジャイル開発がその解決策として普及していくようになりました。アジャイル開発は、短いサイクルで実際に動くソフトウェアを提供し、そのフィードバックを次の開発に活かすことで、顧客が本当に求める価値を継続的に提供できるため、市場の変化に柔軟に対応し、競争力を維持する上で不可欠な開発手法となっています。
アジャイル開発とウォーターフォール開発との違い
ウォーターフォール開発とは?「戻らない」前提の進め方
ウォーターフォール開発は、要件定義・設計・実装・テスト・納品と、各工程を一方向に順番に進める開発手法です。いわば「滝」のように上から下へ流れることから、この名前がついています。
この手法では、最初の段階で要件をすべて確定させ、設計や開発に進みます。各工程は後戻りしない前提のため、仕様の変更があった場合は、手戻りのコストや影響が非常に大きくなります。
そのため、開発初期に膨大な設計資料やレビュー、承認プロセスを重ねることが一般的です。
比較項目 | ウォーターフォール開発 | アジャイル開発 |
---|---|---|
進め方 | 一方向に進む(要件定義 → 設計 → 実装 → テスト) | 短いサイクルで計画・開発・テスト・見直しを繰り返す |
要件変更への対応 | 後戻りが困難。仕様変更には多大なコストがかかる | 変更を前提として柔軟に対応可能 |
成果物の確認タイミング | 完成時にまとめて確認 | 各サイクルの終了時に部分的な成果物を確認・フィードバック可能 |
顧客・関係者との連携 | 初期と最終段階に集中しがち | プロジェクト期間中、頻繁な連携が求められる |
これら2つの開発手法には、それぞれメリット、デメリットが存在しますが、プロジェクトの成功率に関する統計データを見てみると、結果としてアジャイル開発の優位性を示しています。
「Standish GroupのCHAOS Report 2011」によると、アジャイル開発はウォーターフォール開発と比較して3倍の成功率を誇るとされており、具体的には、致命的な失敗(プロジェクト中止)の割合がウォーターフォール開発で30%であるのに対し、アジャイル開発ではわずか9%という調査結果が出ています。※2
また、アジャイル開発導入の理由として、回答者の75%が「ソフトウェアデリバリーの加速」を、64%が「優先順位変更への対応能力の向上」を挙げています。※3
※2 出典:Mountain Goat Software「アジャイルはウォーターフォールの3倍成功する」
※3 出典:ClearCode「アジャイル開発とウォーターフォール開発の違い」
(CHAOS Report 2011 の内容を紹介)
アジャイル開発のメリット・デメリットとは?
アジャイル開発のメリット
仕様変更に強い
前述しているように、最大のメリットは、要件変更や追加への柔軟な対応が可能なため、不具合や仕様変更が発生した時の手戻り・工数が少ないことです。ウォーターフォール開発のようにすべての仕様を事前に固めず、開発中に発生する新たな要望や市場の変化に応じて、優先順位や方針をその都度変更することができます。
また、要件定義が明確に定まっていない案件ならば、柔軟性を持ったアジャイル開発にて進めていくケースも多いです。
早期のリリースが可能
アジャイル開発では、機能単位で開発を進めることができるため、完成した部分から順次リリースすることが可能です。複数のチームが並行して短いサイクルで開発を進める体制を取ることで、一部の機能を早い段階で市場や社内に展開し、実際のフィードバックを踏まえて改善や追加開発を行うといった柔軟な運用が可能になります。
アジャイル開発のデメリット
全体スケジュールや予算の見通しが立てづらい
アジャイルは変化を受け入れる前提で進行するため、開発初期に明確なスケジュールや予算を立てることが困難です。結果として、想定よりリリースが遅延したり、追加対応によって予算を超過するケースもよく耳にします。
方向性がブレやすい
アジャイル開発では、顧客や関係者からのフィードバックを都度反映しながら進めるため、プロダクトの方向性が途中で変わってしまうリスクも存在します。
特に、プロダクトオーナーの判断が曖昧だったり、ビジョンがチーム内で共有されていない場合、改善のつもりが「方針の迷走」につながることもあります。
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アジャイル開発の関連用語
ユーザーストーリー
アジャイル開発では、従来の「要件定義」に代わり、ユーザー視点での「やりたいこと」や「期待する価値」を簡潔に表現した文章(=ユーザーストーリー)を用います。
ユーザーストーリーは、開発の意図を関係者と共有するための単位であり、優先順位の判断やスプリント計画、進捗管理の基準としても活用されます。
例:
「ユーザーが気に入った商品をお気に入りに登録できるようにしたい」
「管理者がログイン履歴をダッシュボードで確認できるようにしたい」など
イテレーション(スプリント)
イテレーションとは「反復」という意味で、アジャイル開発では1回の開発サイクルの単位を指します。
スクラム手法では「スプリント」とも呼ばれ、一般的には1~2週間程度で設計・開発・テスト・レビューまでを1セットとして繰り返します。
ベロシティ
ベロシティは、開発チームが1つのイテレーションでどれだけユーザーの要求(ユーザーストーリー)を完了できたかを示す数値です。
この数値を使って、次回以降の作業量の見積もりやスケジュールの精度向上につなげることができます。ベロシティはチームごとに変動があるため、自社に合った開発速度の把握と管理に役立つ指標です。
プロダクトバックログ
プロダクトバックログとは、開発対象となる機能や改善項目をリスト化したもので、プロダクトオーナー(PO)が管理します。
ユーザーストーリーごとに優先順位をつけ、どの機能から開発していくかをスプリント計画の際に決定します。アジャイルではこのリストが「開発の起点」となるため、バックログの整理や更新は非常に重要な業務となります。
レトロスペクティブ
レトロスペクティブとは、スプリントの終了後にチーム内で行う振り返りミーティングです。
「うまくいったこと」「改善できそうなこと」を洗い出し、次回のスプリントに活かすことで、チーム全体の成長と開発品質の向上につながります。
アジャイルではこの「ふりかえり文化」が重要な要素とされており、単なる開発だけでなくチームビルディングや学習の場としても活用されています。
アジャイル開発の主な手法
アジャイル開発には複数の手法が存在しており、目的やチーム体制に応じて選択されます。ここでは、代表的なアプローチをご紹介します。
スクラム(Scrum)
最も広く使われているアジャイル手法の一つで、1〜4週間の短いサイクル(スプリント)を繰り返しながら開発を進めていきます。ラグビーの「スクラム」になぞらえたネーミングの通り、チーム全体で密に連携しながら、段階的に機能を完成させていくのが特徴です。
- プロダクトオーナー(PO)
プロダクトの方向性や優先順位を決める責任者で、顧客や事業側のニーズを踏まえて「どの機能を、いつまでに、どこまで作るか」を判断します。開発チームにとっての“意思決定の窓口”であり、開発の価値や成果を最大化する役割を担います。 - スクラムマスター(SM)
チームが円滑に開発を進められるようにサポートする進行役・調整役で、課題の解消や、開発チームと他部門との調整を行ったりと、開発を円滑に回すためのファシリテーターのような存在です。 - 開発チーム
実際にプロダクトを作る技術チームで、設計・実装・テストなどの業務を担い、開発業務を進めます。
エクストリーム・プログラミング(XP)
XPは技術的な品質と柔軟性を重視するアジャイル手法で、仕様変更や設計変更に迅速に対応できる点が特徴です。頻繁なリリースを行いながら、動作するソフトウェアの価値を高めていきます。
XPを実践するチームは、4つの価値観(コミュニケーション / シンプル / フィードバック / 勇気)を共有することも特徴として挙げられます。
ユーザー機能駆動開発(FDD)
FDD(Feature Driven Development)は「顧客にとっての機能(Feature)」を中心に開発を進める手法です。機能単位で設計・実装・リリースを行い、成果物の粒度と目的が明確になりやすい点が特徴です。
開発初期に「フィーチャーリスト」と呼ばれる機能一覧を作成し、それに基づいて開発を計画・管理していきます。動くソフトウェアを継続的に提供するという点ではXPに近い考え方ですが、FDDはより構造的で、ドキュメントによる共有も重視されます。
大規模開発や、要件整理が進んでいるプロジェクトとの相性が良い手法です。
リーンソフトウェア開発(LSD)
LSD(Lean Software Development)は、製造業の「リーン生産方式」をソフトウェア開発に応用した手法です。「リーン」という言葉には、「無駄のない」「ぜい肉がない」「痩せた」という意味がある通り、無駄を徹底的に省き、必要な価値だけを素早く届けることを目的としています。
具体的には、「不具合を未然に防ぐ」「意思決定を急がない」「チームを尊重する」など、7つの原則に基づいて開発を進めます。決まったフレームワークがあるわけではなく、組織の改善文化やプロセスの最適化を重視する姿勢が特徴です。
カンバン
カンバンは、開発プロジェクトの進行状況を「見える化」することで、チーム全体の作業負荷やボトルネックを把握しやすくする手法です。
カンバンボードと呼ばれるタスク管理表を用いて、タスクの状況を「To Do(未着手)」「Doing(進行中)」「Done(完了)」などの列で整理し、誰が何をしているかを即座に把握できるようにします。
「システム開発のQAの重要性」についてはこちらの記事をチェック!
ラクスパートナーズのアジャイル開発支援の事例
ここでは、当社ラクスパートナーズがアジャイル開発に参画した事例をご紹介します。
参画事例:大手ITサービス企業のWebプロダクト開発支援
AIチャットボットや予約管理システムなどのWebプロダクト開発チームに複数のエンジニアが段階的に参画。現場はスクラムに近い形式で運用されており、開発・受け入れテスト・企画提案まで幅広い領域で貢献しました。
課題・背景
- 新機能の追加要件が多く、開発リソースとキャッチアップスピードの両立が必要だった
- フロント・バックエンドにまたがる領域を複数のエンジニアで分担し、柔軟な体制を構築する必要があった
効果
- ReactやNext.jsなどのモダンな技術に対応できる人材が揃い、スクラム的な開発フローにスムーズに適応
- 受け入れテストや評価業務にも積極的に関わり、開発フェーズ以外でもチーム貢献
- 複数名参画により役割分担とナレッジシェアが進み、オンボーディングコストの削減にも寄与
その他、ラクスパートナーズの参画事例はこちらから!
まとめ
アジャイル開発は、変化の激しい市場環境や多様化する顧客ニーズに柔軟かつ迅速に対応するための、現代的な開発スタイルです。従来のウォーターフォール型開発と比べてプロジェクトの成功率が高く、仕様変更への柔軟な対応力や、短いサイクルでの品質改善・早期リリース、さらにビジネスと開発の密な連携といった多くのメリットを備えています。
こうした開発手法のメリットを最大限に活かすには、まず自社がどのような開発スタイルを採用しているのかを明確にし、それに合った人材を見極めて採用・配置することが重要です。特にアジャイル開発においては、技術力だけでなく、コミュニケーション力や自律性といったスキルも求められるため、変化に強い開発体制を構築するためにも、開発スタイルと人材要件を正しく結びつけた採用戦略が重要となるでしょう。
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