ソフトウェア開発の現場では「スピード」と「品質」の両立がこれまで以上に求められています。リリースサイクルの短期化、ユーザーの期待水準の上昇、そして複雑化するシステム構成。現在、従来のテスト業務だけではカバーしきれない品質管理の専門人材として「QAエンジニア」の重要性が急速に高まっています。
その背景には、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の加速があります。実際、情報処理推進機構(IPA)が公表した「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2024年版)」によれば、自己診断を実施した企業数は2019年の248社から2024年には1,349社へと急増しており、とくに中小企業の参加が顕著です。これは、業種・規模を問わず多くの企業がデジタル化への本格的な取り組みを始めている証拠であり、開発プロセス全体における品質保証の重要性も飛躍的に高まっていることを意味します。
本記事では、なぜ今QAエンジニアが注目されているのかを解説するとともに、QAエンジニアの役割、組織における価値、採用・外注の検討ポイントについて詳しくご紹介します。
【目次】
QAエンジニアとは?
QA(Quality Assurance)エンジニアとは、ソフトウェアやシステム開発において「品質を保証する」ことを専門に担当する職種です。単にバグを見つける「テスター」とは異なり、開発プロセス全体に関わりながら、仕様の妥当性やユーザー体験の最適化を図ることが主な業務となります。
具体的には、テスト設計、テスト自動化の構築、リリース判定、品質指標の定義などを担い、プロダクトの信頼性向上に貢献します。また、プロダクトマネージャーやエンジニアとの連携を通じて、要件定義の段階から品質を作り込む役割も果たします。
以下に代表的な業務内容を紹介します。
- 要件定義段階での品質基準設計
- 品質保証テストの計画・設計
- 品質指標の設定とモニタリング
- 自動化の検討
- ステークホルダーとの調整
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QAエンジニアが重要視される理由
現代の開発現場では、以下のような理由からQAエンジニアの必要性が高まっています。
- アジャイル/DevOps時代の到来:開発サイクルが高速化し、品質を迅速に担保する役割が不可欠に。
- ユーザー体験(UX)の重視:不具合やUIの不整合は即座にユーザー離脱を招くため、品質は企業ブランドに直結。
- 開発人材の分業化:開発者が本来の実装に集中するためには、品質管理を専門とする人材の存在が鍵となる。
結果として、QAエンジニアは単なるチェック担当ではなく、「品質文化を育む存在」として組織に欠かせない役割を担っています。
QA組織の立ち上げ方とは?ゼロから品質管理体制をつくるポイント
QAエンジニアの重要性が高まるなかで、自社に専任のQA組織を立ち上げる企業が増えています。とはいえ、ゼロから品質保証体制を構築するには、いくつか押さえておくべきステップがあります。
まずは「何を品質保証の対象とするか」を明確に定義することから始めましょう。たとえば、単体テスト・結合テスト・E2Eテストといった範囲を整理し、どの段階で誰が関与すべきかを設計します。
次に、体制づくりと人材の確保です。専任のQAエンジニアを採用する、または外部人材(派遣・SES・チーム型委託など)を活用して、最低限の品質保証チームを編成します。この段階では、マネージャーやリーダーとなる人材の配置も重要です。
その後は、テスト戦略やチェックフローの整備に移ります。手動テストと自動テストの役割分担、バグトラッキングのプロセス、品質KPIの定義など、QA活動を仕組み化していくことが求められます。開発チームとの連携ルールも早期に決めておくと、トラブルを未然に防ぐことができます。
最初から完璧な体制を構築する必要はありませんが、「最低限の責任領域」と「徐々に広げるビジョン」を持って進めることで、安定したQA組織として成長させていくことができます。
QA体制がないことで起きる失敗例
QA体制が不十分なまま開発を進めた場合の失敗例として、以下のようなものがあげられます。
- 品質トラブル
テスト不足のままリリースされたプロダクトは、不具合やバグが多発しやすく、ユーザーからの信頼を一気に失うリスクがあります。 - 属人化
テストや仕様把握が特定のエンジニア個人に依存すると、異動や退職の際に品質維持が困難になります。新メンバーのキャッチアップも難しく、不具合の再発リスクも高まります。 - 開発・運用の非効率化
品質確認のリソースが確保されないことで、開発スピードが落ち、技術的負債が蓄積されます。また、他部門にも負担が波及し、全社的な生産性の低下を招きます。
このような事態は企業の信頼を損なうだけでなく、他部門にも大きな負担を強いることになります。だからこそ、QA体制は「コスト」ではなく「投資」として捉えるべきなのです。
品質保証(QA)体制が不十分なまま開発を進めると、短期的にも長期的にもさまざまな問題が表面化します。これは単なるテスト不足という次元に留まらず、企業全体の信頼性や持続可能性に直結するリスクです。QA体制の欠如がどのような悪影響を及ぼすかを具体的に解説します。
1. リリース直後の不具合多発によるブランド毀損
QA体制が整備されていない場合、開発チームによる検証が不十分なままリリースを迎えることが珍しくありません。その結果、公開直後に重大なバグや動作不良が多発し、ユーザーからの不満がSNSなどを通じて一気に拡散。「炎上」状態となり、緊急パッチ対応やサポート窓口への問い合わせ対応に追われることになります。こうした初動の失敗は、顧客満足度を著しく低下させ、ブランド価値の毀損につながります。
2. 属人化による品質管理の崩壊
QA体制が未整備な環境では、テストや仕様確認が特定のエンジニア個人に依存しやすくなります。この「属人化」が進むと、担当者の異動・退職・休職が直撃リスクとなり、以降の開発や保守に大きな支障をきたします。また、新メンバーが仕様を把握しきれず、同様の不具合が繰り返されるなど、品質の持続性が著しく損なわれる恐れもあります。
3. 開発スピードの低下と技術的負債の増加
テストフェーズを開発エンジニア自身が担っているケースでは、実装と検証の両方に時間を割かなければならず、本来集中すべき設計や実装にリソースが割けなくなります。結果として、納期の遅延が慢性化し、仕様変更やバグ修正への対応も後手に回りがちです。また、十分な検証を省略したままリリースを繰り返すことで、後々解消が困難な技術的負債が蓄積してしまいます。
4. 他部門への影響と全社的な非効率
QAの不足は開発チームだけの問題にとどまりません。不具合対応に追われるサポート部門、クレームに悩まされる営業担当、顧客との信頼関係を失うカスタマーサクセスチームなど、社内のさまざまな部署に波及的な影響を与えます。本来注力すべき業務が妨げられ、全社的なパフォーマンス低下を招くこともあります。
QAエンジニアに求められるスキルセットと育成の難しさ
QAエンジニアには幅広いスキルが求められます。たとえば:
- 論理的思考力と仕様の読み解き力
- 自動化スクリプトの実装スキル(例:Selenium, Cypress)
- 開発者との技術的なコミュニケーション能力
- 品質指標の設計や改善提案の実践力
しかし、これらのスキルをすべて社内で育成するには相応の時間と教育体制が必要です。特に即戦力レベルへの到達は簡単ではなく、「育てても半年以上かかる」「スキルがアンマッチだった」という失敗もよく聞かれます。
そのため、初期フェーズや体制構築段階では、経験豊富なQAエンジニアを外部から迎えることが、合理的な選択肢となるケースもあります。
QAエンジニアの参画事例①
ここでは、ラクスパートナーズのQAエンジニアの参画事例を一部ご紹介します。
派遣先企業
EC向けSaaS開発企業
背景・課題
事業拡大に伴う高難度のエンタープライズ向けカスタマイズ案件などが発生しており、効率的にテスト業務を行っていく必要があった。そのために、QAチームを強化する必要があり、即戦力のエンジニアを求めていた。
対応内容:
- プロダクトオーナー1名・開発エンジニア2名・QAエンジニア1名のチームに参画
- 参画8カ月で、それまでプロパーの方が担っていたスクラムマスターのポジションを任され、複雑な決済周りの仕様を把握し、テスト業務を運用
- 生産性効率化プロジェクトにも参画し、チケット管理方法の提案などを実行
成果:
- 自ら積極的にプロジェクトに参加し、チームの生産性向上に貢献
- スクラムマスターとしてチームマネジメントを担当
- テスト自動化を実施し、高難度案件の品質を支援
QAエンジニアの参画事例②
派遣先企業
SNS連動のEコマース開発企業
背景・課題
- テスト専任者が不在の状態で、開発者が個々にテストを実施していたため、品質にばらつきがあり、バグの多発も課題に。戦略的に品質保証を強化する必要があった。
対応内容:
- 開発チームおよび横断的なQAチームに参画し、複数プロジェクトのテスト管理・品質保証を統括
- テスト設計・実施に加え、自動化(E2Eテスト)を推進し、作業効率を改善
- 不具合をダッシュボードで可視化し、改善サイクルをチーム全体で共有
成果:
- 多数の不具合を検出し、テスト体制の構築・最適化をリード
- テスト管理ツール導入により業務効率を大幅に向上
- バグ傾向や仕様の整備を通じて品質・生産性向上に貢献
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まとめ
QAエンジニアは、現代の開発現場において品質とスピードを両立させるための不可欠な存在です。ユーザー満足度や企業ブランドに直結する品質を担保するためにも、専門人材の確保と活用がますます重要となっています。
しかし、社内での採用や育成には大きなリソースと時間が必要であり、内製化の限界を感じている企業も多いのが実情です。そんなときこそ、即戦力となる外部人材の活用を選択肢に加えることで、現場の負荷を抑えながら、より安定した品質体制を構築することが可能です。
当社では、開発現場の状況や課題に応じた柔軟なQAエンジニア派遣・業務委託をご提案しています。「どこから始めればよいかわからない」といった初期段階のご相談でも構いません。まずはお気軽にご連絡ください。
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