DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や生成AIの普及により、企業における「データの利活用」がますます注目されています。業務改善や意思決定の精度向上、さらには新たなビジネスモデルの創出にまで影響を与えるデータ活用。その中核を担う職種が、データサイエンティストです。
しかし、
- データサイエンティストとAIエンジニアとの違いは?
- 機械学習エンジニアとはどう違うのか?
- 分析は必要だが、どのスキルが必要かがわからない
といった疑問を抱える採用担当者も少なくありません。
本記事では、データサイエンティストの業務内容やAI・機械学習エンジニアとの違い、採用のポイント、さらには当社ラクスパートナーズの参画事例まで解説します。
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【目次】
データサイエンティストとは?
データサイエンティストとは、企業や組織が抱える複雑なビジネス課題に対して、膨大かつ多様なデータ(※構造化データ/非構造化データ)を収集・整理・分析し、根拠ある意思決定や課題解決につなげる役割を担う専門職です。
構造化データとは、行や列で整理されたデータベースなどの形式で扱われるデータです。
例えば、顧客ID、購入日、商品名、金額などが表形式で管理されている「売上データ」などが該当します。
一方、非構造化データとは、明確な形式や構造がなく、そのままでは分析しにくいデータを指します。代表的な例としては、文章・画像・音声・動画・SNS投稿などがあり、自然言語処理や画像解析などの技術を通じて活用されます。
この職種は単なるデータの解析者ではなく、統計学や機械学習などの手法を用いて、仮説構築・予測・可視化・戦略提案まで一貫して行える「データの翻訳者」として期待されます。
また、データ分析の結果を経営層や非エンジニア層にもわかりやすく伝える役割も持ち、コミュニケーション力も重要視される職種です。
さらに近年では、クラウド環境や自動化ツールの発展に伴い、従来の統計解析に加えてMLOpsやデータパイプライン構築といった実装力も求められる傾向にあります。
データサイエンティスト誕生の背景
データサイエンティストという言葉が登場したのは2008年ごろ。インターネットの普及とともに企業が保有するデータ量が爆発的に増え、既存のデータベース管理者やアナリストでは対応できないレベルの「構造化・非構造化データの利活用」が求められるようになったことが背景です。
米国ではLinkedInの前CTOであるDJ Patil氏が提唱したことで一気に認知が広まりました(参考:Harvard Business Review – Data Scientist: The Sexiest Job of the 21st Century)。
日本国内でも、ビッグデータやAIブームと共に各業界で採用ニーズが拡大。今やDX戦略の中核を担う人材として、IT企業のみならず金融、流通、製造業幅広い業界で必要とされています。
データサイエンティストの業務内容
データサイエンティストは、単に「分析をする人」ではありません。ビジネス課題の構造化から、データの整備・分析、そして意思決定支援まで、プロジェクトの上流から下流までを担います。ここでは、主な業務を3つのステップに分けてご紹介します。
仮説立案~情報収集
最初に取り組むのは、解決すべき課題を明確にすることです。事業部門とのヒアリングを通じて、業績の低迷や離脱率の増加といったビジネス課題を特定し、それに対する仮説を立てます。
たとえば、「なぜ新規顧客の継続率が低いのか」「どの属性のユーザーが高いLTVを持っているのか」といった問いを立て、それに必要なデータがどこに存在するのかを洗い出していきます。
この工程では、構造的に物事をとらえる思考力と、正確な課題設定の力が求められます。
データ前処理
次に行うのは、データを分析可能な状態に整える作業です。いわゆるデータクレンジングやETL処理と呼ばれる工程です。
具体的には、データベースやログから必要な情報を抽出し、欠損値の補完や表記ゆれの修正、形式の統一などを行います。また、異常値の検出・除外やカテゴリ変数の整形といった処理も含まれます。
この作業は地道ですが、データの質が分析の精度を大きく左右するため、非常に重要なプロセスです。
データの分析~レポーティング
整えたデータをもとに、仮説の検証や傾向の把握を行います。統計解析や機械学習を活用して、予測モデルを構築したり、因果関係を明らかにしたりします。
分析の結果は、TableauやLookerといったBIツールを使ってグラフやダッシュボードで可視化します。経営層や非エンジニアの関係者にもわかりやすく伝えることが求められます。
最終的には、分析結果をもとに施策提案を行い、意思決定や業務改善につなげていきます。単なる「分析する人」にとどまらず、組織の意思決定を後押しする存在としての役割が期待されます。
AIエンジニア・機械学習エンジニア・データアナリストとの違いは?
混同されやすいが、本質的には異なる職種
データ活用に関連する職種には、データサイエンティスト以外にもAIエンジニア、機械学習エンジニア、データアナリストがあり、それぞれに明確な役割と得意分野があります。
以下の表では、目的・スキル領域・成果物を中心に各職種の違いを整理しています。
職種 | 主な役割 | 求められるスキル | 担当領域 |
---|---|---|---|
データサイエンティスト | ビジネス課題の定義~ 分析・提案までを一貫して担う | 統計、機械学習、 仮説構築、可視化、 ビジネス理解 | 分析戦略立案、 仮説検証、意思決定支援 |
AIエンジニア | AI技術を用いた システム・サービスの 実装・運用 | Python、クラウド、MLOps、API設計 | AIソリューション開発、運用構築 |
機械学習エンジニア | モデル構築と精度改善、データ処理基盤の設計 | アルゴリズム実装、 チューニング、 再学習設計 | 学習モデルの開発・ 改善・保守 |
データアナリスト | 既存データの可視化や 業務支援レポートの作成 | SQL、BIツール、 KPI設計、データ集計 | 指標管理、業務支援、 日常的なデータ分析 |
各職種とデータサイエンティストとの違いは?
AIエンジニアとの違い
AIエンジニアは、AI技術(画像認識、自然言語処理、レコメンドエンジンなど)を実際のサービスやシステムに組み込むための開発・実装を主に担う職種です。
一方、データサイエンティストは、業務上の課題からスタートし、どのようなデータやモデルを使うべきかを考える「仮説構築」や「分析設計」を得意とします。AIエンジニアが「技術の適用者」であるのに対し、データサイエンティストは「問いを立てる人」として上流工程を担うことが多いです。
機械学習エンジニアとの違い
機械学習エンジニアは、与えられた目的やデータに対して、最も精度が高く、運用可能な学習モデルを設計・構築することに特化した職種です。
一方、データサイエンティストは、必ずしも高精度なモデル構築を目的とはせず、「仮説検証」や「業務改善につながる示唆の提供」に価値を置きます。モデル構築を行う場合でも、実験的・検証的な使い方にとどまるケースもあります。
データアナリストとの違い
データアナリストは、KPIモニタリングやレポート作成など、既存データをもとに事業状況を可視化・把握する役割を担います。
データサイエンティストは、そこから一歩踏み込み、「なぜその傾向が生まれているのか」「どうすれば改善できるのか」といった因果関係や未来の予測にアプローチします。データアナリストが「現在の把握」に特化するのに対し、データサイエンティストは「未来に向けた意思決定の支援」までを担う点が大きな違いです。
これらの違いを正しく理解し、自社のプロジェクトにおける課題や目的に応じた人材選定を行うことが、効果的なデータ活用の第一歩となります。
データサイエンティストの特徴
データサイエンティストに共通する特徴は、以下の3点に集約できます。
①論理的思考力と仮説力
単にデータを見るだけでなく、「なぜこの数値になっているのか」「どのような要因が影響しているのか」といった本質的な問いを立てる力が求められます。表面的な相関関係ではなく、因果関係に踏み込んだ分析ができることが、信頼される示唆を導く鍵となります。
②ビジネス理解とコミュニケーション力
技術的な分析結果を、現場部門や経営層に対してわかりやすく伝え、納得感を持って意思決定に活かしてもらうことが求められます。特に、非エンジニアとも円滑にコミュニケーションを取りながらプロジェクトを推進できるかは、優秀なデータサイエンティストとそうでない人材を分ける重要な分岐点です。
③多様な技術の横断的スキル
統計学や機械学習の知識はもちろん、Python・SQLといったプログラミング言語、データベース、BIツール、クラウド(GCP、AWSなど)など、多様な技術に対応できるスキルセットが求められます。特定の専門領域だけでなく、横断的にツールや知識を活用し、実務で応用できる力が重要です。
また、エンジニア・マーケター・営業など他職種と連携して価値を生み出す力も、大きな強みの一つです。
データサイエンティストに関連する資格
データサイエンティスト職において、資格は必須ではないものの、知識やスキルの証明として有効です。採用時やスキルの指標として参考にされることもあります。
主な資格
- 統計検定(2級・準1級):統計学の基礎から応用までを評価
- G検定(ジェネラリスト検定):AIや機械学習の基本的な知識を証明
- Pythonエンジニア認定データ分析試験:Pythonによるデータ分析スキルを測定
- データサイエンティスト検定(リテラシーレベル):経産省支援の資格で基礎的な理解を評価
ただし、資格だけでは実務スキルを完全に測れないため、あくまで補完的な要素として捉えることが重要です。
その中で特に注目されるのが、Kaggle(カグル)という国際的なデータ分析コンペティションプラットフォームでの実績です。Kaggleでは、世界中のデータサイエンティストや機械学習エンジニアが実務に近い課題に挑戦しており、ランキングやメダルの獲得歴は、その人の実力を示す客観的な評価指標として広く認知されています。
Kaggleの魅力は、誰でも自由に参加できる点にあります。GoogleやAmerican Express、Microsoftなど、日本でも知られる大手企業もスポンサーとして実践的な課題を提供しており、実務に近い経験を積むことができます。難易度も幅広く、初心者向けから上級者向けまで多彩なコンペが常時開催されているため、スキルレベルに応じて挑戦を重ねながら実力を高められる環境が整っています。
データサイエンティストの年収
データサイエンティストは高度なスキルと実務経験が求められる専門職であり、その市場価値も非常に高い傾向にあります。
厚生労働省の「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」によると、情報処理・通信技術者(データサイエンティストを含む)の平均年収は約573万円とされています(参考:職業情報提供サイト(jobtag))。
実際の年収はスキル・経験・所属企業・勤務地などによって大きく異なり、特に外資系企業や先進的なDX企業では800万〜1,200万円のレンジも珍しくありません。
年収レンジが広がっている背景には、データ活用を起点とした事業戦略の立案やAIプロジェクトの拡大など、データサイエンティストに求められる役割の高度化が挙げられます。
データサイエンティストの採用を検討すべき課題とは?
「データサイエンティストが必要かどうか」を判断するには、まず自社が抱える課題や目指す姿を明確にすることが重要です。以下のような状況が見られる企業では、データサイエンティストの知見が大きな価値を発揮します。
データは蓄積しているが、活用できていない
社内に売上データ・ログデータ・アンケート結果などは蓄積されているものの、それらが業務改善や戦略策定に活かされていない状態です。
たとえば、「BIツールは導入済だが眺めるだけ」「定期レポートは作っているが使われていない」といったケースでは、仮説検証や意思決定支援に導ける専門人材が求められます。
レポートはあるが、“次の一手”が出てこない
KPIや業績の報告はされているものの、「その後、何をするべきか?」という示唆が不足しているケースです。
データサイエンティストは、傾向の分析だけでなく、「その背景」や「改善アクション」を提示することに長けており、既存のレポートを“使える提案”に変える力があります。
データ分析が属人化し、再現性・横展開に限界がある
一部の担当者に分析スキルが偏っており、属人的なノウハウに頼っている場合も要注意です。
ツールやSQLが個人の手元で完結していたり、抽出ロジックが文書化されていなかったりする状況では、組織全体でのデータ活用が広がりにくい状態です。
データサイエンティストの参画により、再現性ある仕組み化やドキュメント整備が進み、チーム全体の底上げが可能になります。
因果関係の特定や将来予測まで踏み込めていない
「〇〇が減っている/増えている」という事実は把握できていても、「なぜそうなったのか?」「どうすれば改善するのか?」 という因果関係や打ち手の設計まで踏み込めない企業は少なくありません。
データサイエンティストは、単なるモニタリングではなく、統計学や機械学習のアプローチを用いた仮説検証・予測モデル構築を通じて、課題の構造化と改善施策の提案を行います。
経営層や非エンジニア層にデータの意味が伝わらない
分析結果を提示しても、「エンジニア言語ばかりで理解しづらい」「そもそも興味を持ってもらえない」といった“伝達の壁”に直面する企業も多くあります。
データサイエンティストは、可視化・説明力にも優れており、データを“使える言葉”で経営層や現場に届ける「翻訳者」としても機能します。
全社的なデータ活用文化を浸透させるうえでも、重要な存在です。
データサイエンティストの参画事例
ここでは、ラクスパートナーズのデータサイエンティストの参画事例を一部ご紹介します。
派遣先企業
大手通信会社
背景・課題
キャリア決済事業の収益構造が複雑で、事業管理に必要なデータの整理や資料作成に多大な負担がかかっており、PDCAをスムーズに回すために、膨大なデータを正しく活用できる数学的素養のあるデータサイエンティストを求めていた。
対応内容:
- 事業管理チームにデータサイエンティストが参画
- 数千万件の顧客データを分析・整理し、意思決定可能な形式へ整備
- 加盟店の料率マスターの構築や、滞納率の高いユーザー属性分析などを通じて事業課題を可視化
- データ処理・可視化・報告プロセスを「自動化(PRA導入)」し、業務効率を大幅改善
成果:
- 事務作業の工数削減により、本質的な課題解決に向き合う時間を創出
- 課題の早期把握と打ち手立案のスピード向上に貢献
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まとめ │ 採用で押さえておくべき3つのポイント
データサイエンティストは、データ分析にとどまらず、ビジネス課題の発見から仮説構築、施策提案までを担う「データ活用の中核人材」です。
AIエンジニアや機械学習エンジニア、データアナリストとは役割が異なり、求められるスキルセットや思考アプローチにも明確な違いがあります。
採用においては、以下の3つを押さえることが成功の鍵です。
- 課題を見抜き、問いを立てる力(課題設定力)
- 分析結果をビジネスの意思決定に結びつける力(提案力・翻訳力)
- 実務で通用する技術力と経験(再現性・応用力)
単にスキルだけを見るのではなく、貴社の課題や体制にフィットする人材かどうかを総合的に見極めることが、データ活用の成果を左右します。
「どう評価すればよいか分からない」「スピーディに即戦力を確保したい」といったお悩みがあれば、
正社員型派遣という選択肢もぜひご検討ください。
ラクスパートナーズでは、コミュニケーション能力や実務経験に秀でたデータサイエンティストのご紹介・ご提案が可能です。
データ利活用を次のステージへ引き上げるために、私たちがご支援します。
「生成AI普及によるエンジニアの意識変化」に関する調査レポート