近年、DX推進やIT化の加速により、エンジニアの需要が急増しています。しかし、国内のIT人材供給は追いついておらず、多くの企業がエンジニア不足という課題に直面しています。特に自社での採用は、コストや採用力に左右され、すぐに人材を確保するのが難しい状況です。
このような背景から、外部パートナーとの連携によるリソース確保が注目されています。代表的な手法が「SES(常駐型)」と「受託開発」です。本記事では、これらの違いや活用シーンを整理し、自社にとって最適なエンジニア活用の形を見極めるためのヒントをお届けします。
【目次】
SES(常駐型)とは?
SES(システムエンジニアリングサービス)は、準委任契約に基づいてエンジニアを提供する契約形態です。提供されたエンジニアがクライアント企業の指定する場所で常駐し、業務に従事するスタイルを指します。
メリット
- 柔軟なリソース確保:必要なときに必要なスキルを持つ人材を確保できます。
- 内製化の促進:自社の開発チームに組み込むことで、ノウハウの蓄積や内製化が進みます。
- スピード対応:急なリソース不足やプロジェクトの立ち上げに迅速に対応可能です。
デメリット
- 教育・オンボーディングの必要性:社内の受け入れ体制が整っていないと、スムーズな業務遂行が難しくなります。
- セキュリティ対策:外部人材の受け入れには、情報漏洩防止のための対策が必要です。
受託開発とは?
受託開発とは、クライアントから依頼されたシステムやアプリケーションを、外部の開発会社が開発する形態です。多くの受託開発は成果物責任を伴う請負契約にて契約を結びます。
メリット
- 成果物責任の明確化:仕様に基づく成果物責任が明確で、品質担保が期待できます。
- リソースの節約:人材手配や体制構築を自社で行う必要がなく、開発を丸ごと委託できます。
- 技術的な難易度の高い開発への対応:専門的な技術が必要な開発を外注することで、社内工数を節約できます。
デメリット
- 初期見積りのリスク:見積もりが甘いと、後から追加費用が発生しやすくなります。
- 仕様変更の難しさ:開発中の仕様変更が難しく、柔軟性に欠ける場合があります。
- 進捗の見えづらさ:実際の稼働状況や進捗が見えづらく、管理が難しいことがあります。
SESと受託開発の違い
「SES(常駐型)」と「受託開発」は、どちらも社外人材を活用する点は共通していますが、契約形態・責任範囲・指揮命令系統・チームへの関わり方などが大きく異なります。ここでは、意思決定の際に押さえておきたい主要な比較ポイントを整理し、自社の目的や体制に合った選択肢を見極めるヒントを示します。
観点 | SES(常駐型・準委任) | 受託開発(請負) |
---|---|---|
勤務場所 | クライアント先に常駐 | ベンダー自社オフィス中心 |
指揮命令系統 | SES企業経由 | ベンダーPL → チームへ |
成果物責任 | なし(労働時間に対して報酬を支払う) | あり |
プロジェクトとの関係性 | 社内開発チームの一員として参画 | 独立した開発ラインを担当 |
柔軟性・仕様変更 | ◎ その場で調整しやすい | ◯ 可能だが再見積もりが発生 |
SESについてはこちらの記事をチェック!
SES(常駐型)が向いているケース
既存プロダクトの運用・保守フェーズ
24 時間 365 日止められないサービスでは、社内メンバーと同じくらい深くシステムを理解してくれる人が必要ですよね。
常駐エンジニアをチームに迎えると、たとえばこんな良いことがあります。
- すぐに対応できる安心感
障害を見つけたら、その場で切り分け&一次対応。復旧までの時間をぐっと短縮できます。 - 属人化を防げる
エンジニアが長くいる間にドキュメントや手順を整えてくれるので、特定の人しか分からない状態を防げます。 - オンコールの負担を分散
夜間や休日の当番を分け合えるので、社内メンバーの負荷が軽くなります。
結果として 「トラブル対応が早い」+「社員の負担が減る」 の両方が実現できます。
新機能追加や改修などの継続開発
サービスを育てていると「作る → 出す → 直す」を高速で回す必要があります。
常駐エンジニアなら――
- 週次リリースでも間に合う
設計からテストまでワンストップでこなしてくれるので、リリースサイクルを落としません。 - すぐに相談&レビュー
となりにいる感覚で仕様確認やコードレビューができ、認識ズレが最小限。 - 技術負債の改善提案も◎
改修のタイミングで自動テストやリファクタを提案してくれることも。
アジャイル/スクラム開発を採用しているチームほど、このスピード感が効いてきます。
チームへの一時的な人員補強
リリース前や繁忙期だけ人が足りない、でも終わったら人数を戻したい――そんなときにピッタリです。
- 短期集中で戦力アップ
研修済みエンジニアがすぐ動けるので、CI/CD 整備や負荷試験などを一気に片づけられます。 - 教育コストを抑えられる
立ち上がりが早いので社内の手間が少ない。 - ピーク後にスリムダウン
契約更新のタイミングで人数調整がしやすく、固定費も抑えられます。
プロジェクトマネージャーから見ると、繁忙期の負荷をなだらかにできるイメージです。
アジャイル開発を進めている環境
仕様がコロコロ変わるのがアジャイルの宿命。常駐エンジニアなら、
- その場で方向転換
プロダクトオーナーやデザイナーと一緒に優先順位をすばやく組み替え。 - 業務知識がどんどん深まる
スプリントを重ねるほど提案の質がアップ。
だから スピードと柔軟性 をどちらも大事にしたい現場で効果を発揮します。
受託開発が向いているケース
社内に十分な開発体制・リソースがない場合
「エンジニアも PM も足りない…」「そもそも開発部門がない…」そんな会社では、受託開発が助けになります。
- チームを丸ごとお願いできる
要件定義からテストまで担当してくれるので、採用にかける時間とコストを大幅カット。 - 進捗管理もおまかせ
ベンダー側の PM/PL がタスク管理やリスク対応までしてくれるので、社内は意思決定に専念できます。
限られたリソースでも、短期間でシステムを立ち上げやすいのがポイントです。
要件や仕様がハッキリ決まっている新規開発
「作るものもスケジュールも決まっている」という案件なら、受託開発が一番わかりやすい選択。
- 成果物と納期がくっきり
何をいつまでに納めるかが契約で明確なので、途中でモヤっとしません。 - 予算が組みやすい
工数が見えているぶん、固定価格の請負契約にしやすく、お財布計画が立てやすい。
特に、業務パッケージを入れ替えるとか、既存業務をそのままシステム化するといったケースで力を発揮します。
- スピードと柔軟さを求めるなら SES(常駐型)
- 体制を丸ごと任せたり、決まった仕様で作り切りたいなら受託開発
自社に合った外注の選び方
どのような人材活用手段が適しているかは、自社の体制やリソース状況によって大きく変わります。以下の観点で整理すると、最適な選択肢が見えてきます。
マネジメントリソースがあるか
SESを導入する場合は、エンジニアのタスク管理や進捗確認、技術的なレビューを担える体制が社内にあることが前提となります。
要件や仕様がどこまで固まっているか
開発の目的や成果物の内容が明確であれば、受託開発によってスコープと納期を定めた形で外注しやすくなります。
優先したいのはスピードか品質か
短期間で人員補強が必要なケースや、リリースタイミングに間に合わせたい状況ではSESが有効です。品質担保やドキュメント整備、テスト体制の構築などまで求められる案件では、受託開発の活用が有効です。
よくある失敗例と対策
失敗例①:役割やゴールを曖昧にしたまま常駐エンジニアを受け入れてしまう
リスク:
- 「何をどこまでお願いする?」がふわっとしたまま稼働し、期待値がズレる
- エンジニア側も優先順位が分からず、成果物が散漫になる
- オンボーディングミーティングを通じて役割認識を丁寧にすり合わせる。
- 業務範囲や対応範囲を事前に明文化。
- 想定される成果物や“やらないこと”もあわせて整理。
失敗例②:要件が固まらないまま受託開発を発注してしまう
リスク:
- 途中で追加開発や仕様変更が頻発し、見積もりが膨らむ
- ベンダーとのやり取りが増え、想定以上に時間がかかる
- プロジェクトを小さく切って段階発注
- 早い段階でユーザー要件と仕様をFIX
- 変更が起こり得るポイントを事前に洗い出す
まとめ:目的に応じたエンジニア人材の確保を
エンジニア人材の確保においては、SES(常駐型)と受託開発、それぞれに明確なメリットと向き・不向きがあります。短期的なスピード感や柔軟な仕様変更対応を重視するならSES、品質担保や納品責任を重視するなら受託開発が適しています。
また、必ずしも一方を選ぶ必要はありません。プロジェクトの段階や領域によって、両者を併用するハイブリッド型の活用も効果的です。
自社のリソース、スピード、品質、将来の内製化方針などを踏まえて、最適な人材活用の在り方を見極めることが、開発力と競争力の差につながっていきます。
ITエンジニア採用担当者に関しての調査レポート