クラウド技術の普及に伴い、ITインフラの構築・運用は大きく様変わりし、中でもクラウド環境に特化した「クラウドエンジニア」は、多くの企業で採用ニーズが高まる一方、人材の確保が難しい職種のひとつです。特に、インフラエンジニアとの業務範囲の重なりや、専門スキルの見極めが採用を難しくしています。
本記事では、クラウドエンジニアの採用が難しい背景と、人事が押さえるべき採用ポイントを、基礎知識から事例まで交えて解説します。
【目次】
クラウドエンジニア採用が難しい理由
クラウドエンジニアとは、AWSやMicrosoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)などのクラウドサービスを用いて、ITインフラの設計・構築・運用・保守を行う専門職です。
これにより、多くの企業が既存のオンプレミス環境からクラウド環境への移行を進めており、クラウドエンジニアの求人は年々増加。結果として、採用競争は激化しています。
クラウド市場需要の拡大
クラウドエンジニアが注目される背景には、社会全体のIT活用の変化があります。従来、企業のシステムは自社のサーバールームやデータセンターに構築される「オンプレミス型」が主流でした。しかし現在は、サーバやストレージを自社で保有せず、インターネット経由でサービスとして利用する「クラウド型」が一般化しています。
総務省の「令和3年版 情報通信白書」によると、クラウドサービスを導入している企業の割合は70%を超え、そのうちの約9割が「導入の効果を実感している」と回答しています。(出典:総務省 情報通信白書)このような背景から、クラウドインフラの専門家であるクラウドエンジニアの採用ニーズが急拡大しています。
必要スキルの広さ
クラウドエンジニアはAWSやAzureといったクラウドサービスの知識に加え、OS・ネットワーク・セキュリティ・IaC(Infrastructure as Code)などの幅広い技術領域への理解が求められます。
さらに、オンプレミス環境の経験や知識も業務上求めれるため、即戦力のクラウドエンジニアの母数は限られています。
職種による業務領域が曖昧
クラウドエンジニアはクラウドに特化した職種ではありますが、後述するインフラエンジニアがクラウド業務を担当するケースや、逆にクラウドエンジニアがオンプレ作業を行うケースも珍しくはなく、職種名だけでは役割が判断しづらい状況です。
採用時には「職種名」ではなく「担当する業務内容」を基準にした見極めが必要です。
インフラエンジニアとの違い
ITインフラを支えるエンジニアには様々な種類があります。
一般によく耳にするのが「インフラエンジニア」ですが、「クラウドエンジニア」とどのように異なるのでしょうか。ここでは、インフラエンジニアとの違いについて解説していきます。
インフラエンジニアとは?
インフラエンジニアは、サーバー・ネットワーク・ストレージなど、IT基盤全般を設計・構築・運用・保守する職種です。従来は主に物理サーバーやネットワーク機器を扱うオンプレミス環境での対応が中心でしたが、近年ではクラウド領域も含め、クラウド・オンプレを問わず対応できるフルスタックな役割が求められる事例が増えています。
そのため業務内容の広さにより、インフラエンジニアは専門分野によって以下の職種に細分化されることがあります。
しかし、先述の通り、これらの定義は企業によって異なるケースが多く、実際にはネットワーク環境も近年、クラウドに移行している企業も多いので、ネットワークエンジニアもクラウド環境で作業することもあります。
そのため、同じ業務内容でもクラウドエンジニアとして募集されているケースもあれば、ネットワークエンジニアとして募集されているケースもあるため、「職種」ではなく「業務内容」で判別することが大切です。
クラウドエンジニアは「クラウド特化」のインフラエンジニア
そのため、実際のインフラ関連の現場では業務領域が曖昧な部分も多いですが、クラウドエンジニアはクラウド環境に特化した「広義のインフラエンジニアの一職種」という認識が一般的には適切です。
クラウドエンジニアの業務内容
クラウドエンジニアの基本的な作業フローは、オンプレミスのインフラエンジニアと同様に、「設計」「構築」「運用・保守」の3フェーズで構成されますが、扱う対象や実装方法には大きな違いがあります。
【設計】IT基盤の設計
業務要件をヒアリングし、最適なクラウドサービスや構成を選定・設計します。オンプレミスと異なり、利用するリソースはすべて仮想化されているため、構成の柔軟性が高く、コストや拡張性、セキュリティ面も加味したバランスの良い設計力が求められます。
【構築】仮想環境の立ち上げと自動化
設計に基づき、実際にクラウド上にインフラ環境を構築します。
物理サーバーの設置やネットワーク機器の配線といった作業は不要で、すべてをクラウドの管理コンソールやコードで実現するのが特徴です。近年では、IaC(Infrastructure as Code)を活用した構築の自動化が進んでおり、構成の再現性や保守性の高さが求められます。
【運用・保守】安定稼働と改善の継続
構築したクラウドインフラが安定して稼働するよう、日々の監視・障害対応・定期メンテナンスなどの運用業務を行います。また、コストの最適化やパフォーマンスの向上といった改善提案も、クラウドエンジニアの重要な役割の一つです。
また、クラウド環境では使った分だけ料金が発生する従量課金制であるため、リソースの無駄を見直すコスト管理スキルも重視されます。
クラウドエンジニアに求められるスキル
クラウドエンジニアには、従来のインフラエンジニアと共通する基礎知識に加え、クラウド特有のスキルやツールへの理解が求められます。
また、採用にあたっては「どのスキルが必須か」「どの資格を持っていれば実力の証明になるのか」が判断材料となります。
このセクションでは、クラウドエンジニアを採用する際に知っておくべき代表的なスキルセットと、評価に役立つ資格を整理してご紹介します。
ITインフラの基礎知識
クラウド特有の技術への対応力
クラウドエンジニア採用時の見るべきポイント
クラウドエンジニアの採用では、単にクラウド技術に詳しいだけでなく、自社の環境やフェーズにマッチするかどうかが重要な判断軸となります。ここでは、採用時に押さえておきたい具体的なポイントを解説します。
求める業務フェーズを明確にする
クラウドエンジニアと一口に言っても、担当フェーズは企業によって異なります。例えば以下のように、大まかに3つに分けて考えると整理しやすくなります。
- 新規導入・構築フェーズ
クラウドネイティブな設計やベンダー選定、セキュリティポリシーの策定などが必要 - オンプレミスからの移行フェーズ
既存環境の棚卸し、最適な移行方法の選定、トラブルリスクの最小化などが求められる - 運用・最適化フェーズ
コスト管理、セキュリティ強化、IaCなどを用いた自動化など、安定稼働と効率化に貢献
それぞれ必要とされるスキルや経験が異なるため、自社が求める役割を明確にした上での求人設計が重要です。
「経験年数」よりも「関与範囲」に注目する
クラウドエンジニアは比較的新しい職種であるため、「○年経験あり」といった年数だけではスキルを正確に測りきれない場合があります。それよりも以下のような観点で評価するのがおすすめです。
- 担当プロジェクトの規模・業種・目的
- 自身が設計・構築・運用のどこまでを担っていたか
- チームの中での立ち位置(主導/補佐/個人対応)
これらを確認することで、「実際にどれだけの判断力・実行力を持っているのか」がより正確に見えてきます。
周辺スキル・基礎スキルも重視する
クラウドの活用には、クラウドサービスそのものの知識だけでなく、Linuxの操作、ネットワーク構成、セキュリティ、IaC等を用いた自動化など、幅広い基礎知識が必要です。
そのため、採用の際は以下の4つの観点から、スキルや知見も確認しておくと安心です。
- OS操作
Linuxの基本的なコマンドやトラブル対応経験 - ネットワーク
VPC設計やセキュアな接続設定に関する知見 - IaC
TerraformやCloudFormationなどの自動構築ツールの利用経験 - セキュリティ
クラウド特有のアクセス制御や暗号化設定など
クラウドエンジニアの資格一覧
採用の現場では、実務経験の補完やポテンシャルの証明として資格保有者が高く評価される傾向があります。
以下、各クラウドサービス、インフラ関連の資格を一覧で紹介します。
▼ AWS(Amazon Web Sevices)資格一覧
資格名 | 難易度 | 内容 |
---|---|---|
AWS Certified Cloud Practitioner | ★☆☆☆☆ | AWSの基本的な概念を理解しているかを確認できる基礎資格 |
AWS Certified Solutions Architect – Associate | ★★★☆☆ | 構成や設計に関する実務的なスキルを持っていることを示す中級資格 |
AWS Certified Solutions Architect – Professional | ★★★★☆ | 大規模で複雑なAWS構成にも対応できる上級資格。設計・運用の専門性を証明 |
▼ Azure(Microsoft)の資格一覧
資格名 | 難易度 | 内容 |
---|---|---|
Microsoft Certified: Azure Fundamentals | ★☆☆☆☆ | Azureの基礎概念や用語を理解していることを確認できる入門資格 |
Microsoft Certified: Azure Administrator Associate | ★★★☆☆ | リソース管理や運用スキルを持っていることを示す中級資格 |
▼ GCP(Google Cloud Platform)の資格一覧
資格名 | 難易度 | 内容 |
---|---|---|
Google Cloud Digital Leader | ★☆☆☆☆ | GCPの基本的な活用イメージや概念理解を測れるエントリー資格 |
Google Cloud Associate Cloud Engineer | ★★★☆☆ | GCP環境での構成・運用スキルの理解度を示す実務寄りの中級資格 |
▼ インフラ基礎系の資格(LinuC・LPIC)
資格名 | 難易度 | 内容 |
---|---|---|
CCNA (Cisco Certified Network Associate) | ★★☆☆☆ | ネットワーク構築や運用の基礎知識を証明する資格。クラウド環境でも必要なVLAN、ルーティング、IP管理などの理解を確認できる |
LinuC/LPIC レベル1 | ★★☆☆☆ | Linuxの基本操作や設定方法を理解し、小規模なシステム管理ができることを証明 |
LinuC/LPIC レベル2 | ★★★☆☆ | ネットワーク設定やサーバ構築を含むLinux環境の設計・運用スキルを証明 |
LinuC/LPIC レベル3 | ★★★★☆ | 複雑な環境や大規模システムの構築・運用スキルを証明 |
LinuC システムアーキテクト | ★★★★★ | オンプレ・クラウド問わず、システム全体の最適な設計と構築ができることを証明 |
▼ 自動化・構成管理系の資格
資格名 | 難易度 | 内容 |
---|---|---|
HashiCorp Certified: Terraform Associate | ★★☆☆☆ | Terraformを使ったインフラ構成の自動化スキルを証明する資格。 |
ラクスパートナーズのクラウドエンジニアの参画事例
クラウドエンジニアの具体的な活用イメージとして、実際の企業様での導入事例をご紹介します。
【 参画事例 】大手ポータルサイト運営企業様
課題
複数チーム・プロジェクトが独立してAWSを利用しており、属人化や運用負荷が発生。
マネジメント層の不在により、運用基盤の整備やスケーラビリティの確保が課題となっていた。
施策
効果
まとめ
クラウドエンジニアは、クラウド環境の設計・構築・運用に特化したインフラエンジニアの一種であり、DXやクラウド移行を進める企業にとって欠かせない人材です。
採用にあたっては、経験年数だけでなく関与フェーズや技術領域のマッチ度を重視することがポイントです。
自社のクラウド活用フェーズに応じた人材要件を明確にし、周辺スキルも含めてバランスよく見極めることが、ミスマッチのない採用につながります。