ソフトウェア開発のスピードがかつてないほど求められる時代。SaaSやWebアプリ、モバイルアプリなど、あらゆる業界で頻繁なアップデートと安定した品質の両立が開発チームの大きな課題となっています。
手作業のテストだけではスピードに限界があり、ヒューマンエラーや見落としのリスクもつきもの。そうした背景から注目されているのが「テスト自動化」です。
このコラムでは、そもそもテスト自動化とは何か、どんなメリット・デメリットがあるのか、そして導入を成功させるためのポイントやツール選びまで、実務に役立つ視点でわかりやすく解説していきます。
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【目次】
テスト自動化とは?
「テスト自動化」とは、ソフトウェアやシステムのテスト作業の一部、またはすべてを、ツールやスクリプトを使って自動で実行する手法のことを指します。
例えば、Webアプリの開発において「ログインできるか」「決済が正しく動くか」「フォーム送信後にサンクスページへ遷移するか」など、リリース前に必ず確認する項目があります。
しかし、これを毎回手作業でチェックしていると膨大な時間がかかるうえに、人によって手順がバラバラになることもあり、テストの質が一定化されないという問題があります。
そうした繰り返し発生するテストをプログラムで自動化することで、正確かつ高速に確認作業を進められるようになります。
テストの種類
一口にソフトウェアテストといっても多くの種類があり、「レイヤー別」「テスト方式」「目的」「対象範囲」など、さまざまな軸で分類されます。ただし、実際の現場では1つのテストが複数のカテゴリにまたがることがよくあり、明確に線引きできないケースも多々あります。
以下では、それぞれテスト単体での目的や特徴にフォーカスして10種類のテストをご紹介します。
テスト名 | 説明 |
---|---|
ユニットテスト(単体テスト) | アプリの中でも最も小さな単位(関数・メソッドなど)を検証するテストです。個別の処理が正しく動作しているかを確認し、開発と並行して行われることが多い「基本的なテスト」です。 |
インテグレーションテスト (結合テスト) | 複数のモジュールや機能を連携させたとき、正しく動作するかを確認するテストです。ユニットテストでは見つからない「連携部分の不具合」を検出する役割があります。中規模以上の開発では欠かせない工程です。 |
システムテスト | システム全体が仕様通りに動作するかを確認する、最終段階の統合テストです。ユーザー視点での操作や複雑なシナリオも含めて、全体の完成度をチェックします。本番前の「総合テスト」として位置づけられます。 |
APIテスト | システム同士のやりとりを担うAPI(インターフェース)が正しく動いているかを検証するテストです。入力(リクエスト)と出力(レスポンス)の内容や、エラー処理の精度を確認します。 |
UIテスト | 画面上のボタンや入力欄、画面遷移など、ユーザーの操作に関わる部分を確認するテストです。実際の画面通りにテストを再現できるため、ユーザー体験の保証には効果的ですが、UI変更の影響を受けやすく、保守には工夫が必要です。 |
スモークテスト | 主要な機能が最低限動くかを大まかに確認するテストです。本格的な詳細テストに進む前のチェックとして使われ、不具合がある場合はこの段階で開発チームに差し戻されます。 |
承認テスト(受入テスト) | 完成したシステムが、ユーザーやクライアントの要求を満たしているかを確認するテストです。仕様書に書かれた条件ではなく、「現場で本当に使えるか」に重きを置いて評価し、本番公開前の最終判断に用いられることが多いです。 |
パフォーマンステスト(性能テスト) | 大量アクセスや高負荷な処理のもとで、アプリの安定性や応答速度を検証するテストであり、「ストレステスト」とも呼ばれています。レスポンス時間や同時接続数などを測定し、システムの限界を把握します。 |
アクセシビリティテスト | 色覚や視覚・聴覚に配慮した設計がなされているかを確認するテストです。スクリーンリーダー対応や色のコントラストなど、誰にとっても使いやすい設計が求められます。 |
リグレッションテスト(回帰テスト) | アプリに修正や機能追加を加えた際、既存の機能が正しく動作し続けているかを確認するテストです。 単体テストやUIテストなど、過去に実行したテストを繰り返すのが基本です。 |
自動化におすすめのテスト
すべてのテストが自動化に向いているわけではなく、テストの種類によって自動化の効果や実現のしやすさに違いがあります。
以下では、比較的自動化しやすく、導入効果の高いテストを自動化のおすすめ順にご紹介します。自社の開発体制やプロジェクト規模に合わせて、まずは取り組みやすいテストから始めるのが成功のカギです。
テストの種類 | 内容 | 自動化のしやすさ | 備考 |
---|---|---|---|
回帰テスト (リグレッションテスト) | 修正や追加によって他が壊れていないか確認 | ◎ 非常にしやすい | 実行頻度が高く、工数削減の効果が非常に大きい。 |
ユニットテスト (単体テスト) | 関数やモジュール単位での動作確認 | ◎ 非常にしやすい | 開発者がコードと並行して書くのが理想的。CIにも組み込みやすい。 |
インテグレーション テスト(結合テスト) | 複数の機能が連携したときの動作確認 | ○ やや複雑 | モジュール間の連携確認に有効だが、仕様変更による保守が必要。 |
UIテスト (E2Eテストなど) | 実際の画面操作に近いシナリオテスト | △ 工夫が必要 | UI変更に弱く、保守負担が大きくなりやすい。設計とツール選びがカギ。 |
自動化に向いているテストの特徴
- 同じ内容を繰り返し実行する
例:ログイン処理、商品購入フローなど定型作業 - 頻度が高い
例:毎回のリリースで行う回帰テストなど - 期待する結果が明確
例:特定の値や表示が出れば合格、など判断が単純なもの - 人手だと手間がかかる
大量データ処理やバッチ処理など、長時間かかるものは自動化により負担が軽減されます
逆に、ユーザー体験の確認や、感覚的なUIの心地よさといった部分は、やはり人の目で見ることが重要です。テスト自動化はあくまで「効率化と品質担保の手段」であり、必ずしもすべてを自動化すべきではない点に注意が必要です。
テスト自動化のメリット
テスト自動化を導入することで得られるメリットは、単に「手間が省ける」というだけではありません。
ここでは、特に開発現場・マネジメント層の両方にとって重要な観点から、その利点を詳しく見ていきます。
工数削減と開発スピードの向上
もっとも分かりやすい効果が、工数の削減です。
人の手で行っていた確認作業がスクリプトによって自動化されることで、1回あたり数時間かかっていたテストが数分で終わるというケースも少なくありません。
テスト自動化をCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)と組み合わせることで、開発担当者がシステムの修正や新しい機能を追加したタイミングで、テストが自動的に実行される仕組みを作れます。
これにより、開発とテストを並行して進められるため、リリースまでのスピードと品質の両立がしやすくなります。
品質の安定とヒューマンエラーの排除
人が行う作業には、どうしても「うっかりミス」や「見落とし」がつきものです。
特に手順が煩雑だったり、複数人で分担しているテストでは、確認内容や精度にバラつきが出やすくなります。
テストを自動化することで、常に同じ条件・同じ手順でチェックを行えるようになり、テスト品質が安定します。これにより、バグの早期発見につながり、重大な障害やリリース事故を未然に防ぐことができます。
回帰テストの効率化と確実性向上
「ある機能を修正したら、関係ないはずの別の機能が動かなくなった」というトラブルは開発現場ではよくある話です。これは、機能追加や不具合修正の影響が他の部分に波及してしまうケース(デグレ)ですが、これを防ぐために必要なのが「回帰テスト」です。
ただし、毎回すべてを手動で確認するのは大変で、作業量も担当者の負担も膨らみがちです。
そこで、テストの手順や確認内容をプログラムとして記述しておくこと(スクリプト化)で、修正が加えられたときに、過去のテストもまとめて自動で実行できるようになります。
このスクリプト化によって、修正が加えられた際に過去のテストを一括で再チェックできるうえ、夜間などに人の手を介さず実行する運用も可能になるため、ミスを防ぎながら効率的に品質を守ることができます。
属人化の防止
「このテストは◯◯さんしか分からない」といった状況は、万が一の際にはリスクとなります。
スクリプトとしてテスト内容を残しておけば、誰がやっても同じ結果が得られる状態=属人化の排除につながり、人に依存しない仕組みを作ることができます。
さらに、スクリプトには「何を、どの順番で、どう確認するか」が明確に書かれているため、
仕様変更やバージョンアップの際にも「どのテストを見直せばいいか」がすぐに分かるようになります。結果として、チーム全体の運用がスムーズになり、作業の抜け漏れや確認ミスも起きにくくなります。
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テスト自動化のデメリット
一方で、テスト自動化は「導入すればすべて解決」ではありません。
実際に取り組んだ企業の中には、「思ったより大変だった」「逆に負担が増えた」という声も少なくないのが現実です。
ここでは、代表的な課題とその対策も含めて整理してみましょう。
初期導入コストの高さ
テスト自動化を始めるうえで、最初に大きな壁となるのが導入コストの高さです。
たとえ自動でテストできる仕組みとはいえ、最初はテスト内容を整理し、それをスクリプトとして設計・登録する作業が必要になります。加えて、それを動かすための環境を整えたり、他の開発ツールと連携させたりと、準備には一定の時間と手間がかかるのが実情です。
また、使うツールによってはプログラミングの知識が求められる場合もあり、担当者によっては習得までに時間がかかることもあります。
こうした初期段階の「学習コスト」や「作業量」をあらかじめ見込んでおかないと、「思ったより大変だった」と感じてしまう原因になりかねません。
運用保守が必要
一度自動化すれば完結するものではなく、継続して保守やメンテナンスを行うことが重要です、
特に画面操作(UI)を含むE2Eテストの場合は、ボタンの位置やラベルが少し変わっただけでも、スクリプトが正しく動かなくなることがあります。そのたびにスクリプトを修正していては、逆に手間が増えてしまうこともあります。
そのため、自動化する範囲は「頻繁に変わらない部分」から始めるのがポイントです。
自動テストだけではカバーしきれない部分もある
テストを自動化することで、作業の効率化や確認ミスの削減が期待できますが、すべてを自動で済ませられるわけではありません。
たとえば、「ユーザーにとってこの画面は直感的か?」「操作の流れはわかりやすいか?」といった、使い心地や第一印象に関わる部分は、人の目や感覚でしか判断できません。
また、自動テストで“OK”と判定された結果でも、実際の仕様や設計意図とズレているケースもあるため、最終的な確認は人が行う必要があります。
ラクスパートナーズのテスト自動化の事例
ここでは、ラクスパートナーズのテスト自動化における参画事例をご紹介します。
【事例】SNS連動型EC開発における品質保証の立て直し
背景
テスト専任者が不在の状態で、開発者が個々にテストを実施していたため、品質にばらつきがあり、バグの多発も課題となっていたため、戦略的に品質保証を強化する必要があった。
課題
- テストが開発者任せで、統一された基準やフローがない
- 品質管理が属人化しており、バグの傾向把握や改善が進まない
- 手動テスト中心で、作業負荷や抜け漏れが多発
施策
- 横断的なQAチームおよび各開発チームに参画し、複数プロジェクトの品質保証を統括
- テスト設計・実施を行うとともに、E2Eテストを中心とした自動化を推進
- 不具合の可視化ダッシュボードを構築し、定例でバグ傾向や品質状況を全体共有
効果
- 開発初期段階からのテスト導入により、多数の不具合を早期に検出
- テスト管理ツール導入により、テスト実施・進捗確認の負荷を大幅削減
- バグ傾向の定量分析や仕様整備にも貢献し、品質と開発生産性の両面で継続的改善を実現
テスト自動化ツールの比較
テスト自動化を進める上で欠かせないのが「ツール選び」です。
どのツールを選ぶかによって、導入難易度・保守性・社内展開のしやすさが大きく変わります。
以下は主要なツールの特徴と比較です。
ツール名 | 対象 | 特徴 |
---|---|---|
Selenium(OSS) | Webアプリ | ・様々なプラットフォーム / プログラミング言語に対応可能 ・カスタマイズ性が高い |
Cypress(OSS) | Webアプリ | ・Javascriptベース ・実行スピードが早い |
Playwright(OSS) | Webアプリ | ・Microsoft製 ・複数ブラウザ / OS間でのテストが容易 |
Autify(有償) | Webアプリ モバイルアプリ | ・ノーコード操作が可能 ・保守が比較的容易 |
MagicPod(有償) | Webアプリ モバイルアプリ | ・Web / モバイルを一括管理 ・画面比較による差分検出が可能 ・視認性が高い |
ツール選びのポイント
- 技術リソースの有無
社内にスクリプトを書けるエンジニアがいるかどうかで、OSS系かノーコード系かを選ぶのが基本です。 - UIテストの頻度と重要度
UI変更が頻繁に発生するプロジェクトでは、保守性の高いツール(AutifyやMagicPod)が有利です。 - 連携可能な環境
CIツール(GitHub Actions, CircleCI, Jenkinsなど)やSlack通知との連携が必要かどうかもチェックしましょう。
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テスト自動化の進め方と成功のポイント
テスト自動化段階的に設計・改善していくプロセスがとても重要です。
ここでは、実際に導入を進めていく際に意識すべきポイントを、ステップごとに解説します。
STEP 1:スモールスタートで始める
最初からすべてのテストを自動化しようとすると、時間もコストも膨らみ、チームの負担になります。
そこでおすすめなのが「まずは1〜2個の重要なテストシナリオだけを自動化する」こと。
- 毎回リリース時に必ず実行している回帰テスト
- 入力→送信→完了ページのような典型的フロー
これにより、自動化による効果を検証することができ、ツールの使い勝手や自社との相性も見えてきます。
STEP 2:対象範囲の選定と優先順位づけ
自動化すべきテストの範囲を整理し、コストと効果のバランスが良い箇所から優先的に対応しましょう。
以下のようなマトリクスで洗い出すのが効果的です。
実行頻度 \ 重要度 | 高 | 低 |
---|---|---|
高 | 最優先で自動化対象にすべき(例:回帰テスト・購入フロー) | コスト次第で選定も可 繰り返しは多いがリスクは低い |
低 | 失敗時の影響が大きければ検討余地あり(例:請求処理など) | 手動テストで十分コストをかける優先度は低い |
また、UIテストや非定型テストは保守コストが高くなりがちなので、初期段階では避けるのが無難です。
STEP 3:スクリプトとナレッジの運用設計
テストスクリプトは作って終わりではありません。むしろその後の保守・改修・改善の体制構築こそが重要です。
- スクリプト保管場所の明確化(GitHubなど)
- 修正時のルールやレビュー体制の整備
- スクリプト仕様のドキュメント化
属人化を避けるためにも、チーム内でナレッジ共有を習慣化することがポイントです。
STEP 4:効果の可視化と継続改善
導入後は、定量的な成果を把握・可視化しましょう。以下のような指標をKPIにすることがおすすめです。
- 削減できたテスト時間(例:週20h→3h)
- 発見された不具合数の推移
- テスト実行回数と網羅率の向上
- テスト自動化比率(全体のうち自動実行できている割合)
これらをもとに、継続的に対象範囲やスクリプト品質を見直していくサイクルを回すことで、初期導入から開発基盤へと成熟させていくことが可能です。
まとめ|テスト自動化で“効率”と“品質”を両立させるために大切なこと
本記事では、テスト自動化の基本から活用事例、ツール比較、進め方までを網羅的にご紹介しました。
改めて強調したいのは、テスト自動化は単なる効率化の手段ではなく、品質を守りながら開発スピードを上げるための戦略的な取り組みであるという点です。
導入にあたっては、自社のフェーズや体制に合った「スモールスタート→段階的展開→仕組み化」という流れがカギになります。
ノーコードツールや外部支援サービスをうまく活用することで、技術リソースの不足を補いながら着実に進めることも可能です。
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