近年、多くの企業で「業務の属人化」が深刻化しています。
特定の担当者に業務が依存し、その人が不在になると作業が滞ってしまう。こうした状況は、中小企業に限らず大手企業でも起きており、総務省や経済産業省の調査でも「業務のブラックボックス化」はDX推進の大きな障害として繰り返し指摘されています。特にIT領域では、担当者が一人だけというケースも多く、担当者の異動・退職がそのまま事業リスクに直結する企業も少なくありません。
本記事では、業務の属人化が起きる背景、放置することで生じるリスク、そして組織としてどのように解消していくべきかをわかりやすく解説します。
【目次】
業務の属人化とは?
業務の属人化とは、特定の担当者にしか分からない作業や判断が積み上がり「その人がいなければ業務が進まない状態」を指します。担当者のスキルが高いほど業務を任せてしまいがちですが、その結果、手順や背景が共有されず、組織として知識を蓄積できない状況が生まれます。
総務省の調査でも、「業務プロセスが可視化されていないこと」が日本企業のDX停滞の要因として挙げられており、技術力ではなく「業務のブラックボックス化」がボトルネックになっていると指摘されています。特にシステム保守・インフラ運用・データ管理などのIT領域では、担当者が限られやすく、属人化が起きやすい傾向にあります。
属人化が続くと、担当者の不在だけでなく、組織として意思決定や改善が進まなくなるため、単なる現場要因ではなく経営課題として捉える必要があります。
出典:総務省「情報通信白書」
業務が属人化する主な原因
業務が属人化してしまう背景には、構造的な問題が存在します。特に日本企業の場合、労働人口の減少やIT人材不足など、組織の努力では解決しきれない外部環境の変化が属人化を加速させています。
IT人材の深刻な不足
まず大きな要因として挙げられるのが、IT人材の深刻な不足です。経済産業省の調査では、2030年に最大79万人のIT人材が不足すると予測されており、企業が必要なスキルを持つ人材を十分に確保できない現状が続いています。この不足構造により、限られた担当者に業務が集中し、手順化やナレッジ共有に割く時間が取れないまま、依存度だけが高まっていきます。
業務プロセスのブラックボックス化
さらに、業務プロセスの見える化が進まないことも属人化の原因です。日々の業務が担当者の経験に基づいて進み、明確な手順書がなく、判断基準も共有されない状態が多くの現場で見られます。忙しさを理由にドキュメント化が後回しになることで、担当者しか理解していない暗黙知が蓄積し、結果としてブラックボックス化が進行します。
IT領域の専門性の高度化
加えて、高度化するIT領域の専門性も属人化を強める要因です。AI、セキュリティ、クラウドといった領域では、そもそも社内にスペシャリストが一人しかいない、あるいは兼任で対応しているといったケースも多く、その人物が不在になると業務が止まる状態が生まれています。IPAの調査でも、AI活用・セキュリティ領域では特に「社内で担える人材がいない」ことが大きな課題として挙げられています。
こうした構造的な背景が複合的に作用することで、属人化は単なる現場改善では解消できない組織課題へと拡大しています。
出典:
・経済産業省「IT人材需給に関する調査」
・IPA「DX動向」・高度IT人材不足関連データ
属人化によるリスク
属人化が続いた状態は、単に担当者の負担が増えるだけではありません。企業にとって深刻な経営リスクへと発展する可能性があります。特にIT領域では、担当者のスキルや判断に強く依存するため、ひとつの属人化が組織全体の機能不全へとつながる恐れがあります。
業務停止のリスク
まず、最も分かりやすいリスクは業務停止の危機です。
特定の担当者が不在になるだけで業務が止まり、取引やサービス提供が滞るケースは珍しくありません。中小企業庁の調査では、企業の65.1%が後継者不在の状態にあり、引き継ぎ不能は経営存続を左右する大きなリスクとして浮き彫りになっています。「一人に依存した業務は企業存続を脅かす」という構造は部門単位でも同じです。
品質低下やミスの連鎖
また、属人化は品質低下やミスの連鎖を引き起こすリスクを抱えています。
手順書が存在せず、担当者の頭の中だけで運用されていると、誰が引き継いでも同じ品質を担保できなくなり、作業ミスや問い合わせ対応の遅延が頻発します。現場の負担が増え、最終的には改善どころか日常業務すら回らなくなることもあります。
DX推進の停滞
さらに深刻なのは、属人化がレガシーシステムの放置につながる点です。インフォマートの調査でも、日本企業の6割以上がレガシーシステムを抱えており、多くがブラックボックス化していると指摘されています。また、経済産業省が「2025年の崖」として警鐘を鳴らしているように、古いシステムを放置し続けた場合、年間最大12兆円規模の経済損失が生じる可能性があります。属人化が原因でDX推進が止まり、レガシー刷新が進まない状態は、企業の競争力だけでなく事業継続にも影響を及ぼすリスクがあるのです。
このように、属人化は現場の問題に収まらず、事業停止、経営悪化、競争力低下といった多方面のリスクにつながります。
出典:
・中小企業庁「中小企業白書」
・インフォマート「2025年の崖とDXに関する実態調査」
・経済産業省「DXレポート(2025年の崖)」
属人化を解消するためのポイント
属人化を解消するためには、業務の見える化や標準化、適切な人材配置など、組織としての仕組みづくりが必要です。ここでは、特に現場の負担を増やさず効果を出しやすい3つのポイントを紹介します。
業務の見える化
属人化解消の第一歩は、業務を見える形にすることです。
まずは、誰がどの業務をどの手順で、どれくらいの頻度・工数で行っているのかを棚卸しします。特に、担当者しか把握していない作業(例:データ抽出の独自手順、設定変更の暗黙ルールなど)は優先的に可視化する必要があります。
業務フローやチェックリストの形で整理することで、引き継ぎや担当変更が容易になり、属人化の根本を抑えることができます。
ドキュメント化の仕組みづくり
業務が見える化された後は、誰が担当しても同じ品質で作業できるように手順や基準を「標準化」します。IT領域では、運用設計書、構成管理図、コードのコメント、トラブル対応手順などが該当します。
多くの現場では、日々の業務に追われてドキュメント作成が後回しになりがちです。属人化が進む理由のひとつは、忙しさのあまり、作業手順をまとめる時間が取れず「担当者の頭の中だけに残ったまま」になってしまう点です。」現象にあります。だからこそ、ドキュメント整備の時間を確保したり、チーム全体でレビューしたりする「仕組み化」が重要です。
標準化はミス防止だけでなく、採用・異動の際のオンボーディングにも効果があり、属人化しない強い組織運営に欠かせません。
外部の専門人材を活用する
特にIT領域の属人化については、内部リソースだけで完全に解消することは困難なケースが多いです。経産省が示すように、2030年には最大79万人のIT人材が不足すると予測されており、必要なタイミングで、必要なスキルを持つ人材を採用することはこれまで以上に難しくなっています。
そこで有効なのが、外部のIT人材を活用する方法です。
日々の運用業務や定常作業を外部エンジニアに任せることで、社内メンバーは「属人化の解消」や「DX推進」といった、本来優先すべき業務に時間を割くことができるようになります。また、外部エンジニアの中には、過去の現場で業務改善や標準化に携わった経験を持つ人材も多く、状況によっては属人化解消のタスク自体を任せることも可能です。
このように外部人材を活用することで、人材不足の補填だけでなく、社内メンバーがより戦略的で付加価値の高い業務に集中できる環境が整い、限られたリソースでも高いパフォーマンスを発揮しやすくなります。
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事例①:情報サービス系企業「ンフラ運用の属人化解消と運用体制の強化」
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まとめ
業務の属人化は、担当者の負担を増やすだけでなく、業務停止リスクや品質低下、さらにはDXの停滞やレガシー化といった中長期的な経営課題にも直結します。特にIT領域では人材不足が深刻化しており、社内だけで改善を進めるには限界があります。
属人化を解消するためには、業務の見える化や手順の標準化といった基本的な取り組みに加え、限られた社内リソースを「本質的な業務」に集中させる仕組みづくりが欠かせません。その一つの方法が、外部の専門人材を適切に活用し、日々の運用業務を任せながら社内メンバーが改善やDXに向けた活動に取り組める環境を整えることです。
こうした取り組みを継続的に進めることで、属人化しない強い組織体制を構築でき、変化の激しいビジネス環境にも柔軟に対応できるようになります。業務の属人化に課題を感じている企業は、今日からできる小さな可視化・整理からでも改善を始めてみることをおすすめします。




大規模なクラウド基盤を運用する中で、監視・アラート対応・運用フローが担当者依存になり、一部作業は属人化している状態が続いていた。障害対応の品質がメンバーのスキルに左右される場面も多く、運用ルールの整備や作業標準化、問い合わせ対応の効率化が大きな課題となっていた。