多くの企業で長年にわたり利用されてきたレガシーシステムは、基幹業務を安定的に支える一方で、環境変化への対応力という観点で課題になりやすい領域です。
システムが複雑化・ブラックボックス化することで、改修の難易度や運用負荷が高まり、結果として新しい取り組みのスピードを落としてしまうケースも少なくありません。
近年はDX推進や業務高度化の流れもあり、レガシーシステムをどのように扱うかが、企業の競争力に直結する論点になっています。
本コラムでは、レガシーシステムの基本を整理したうえで、代表的な5つの問題点と、モダン化による脱却方法(マイグレーション、モダナイゼーション、クラウド化)を具体的に解説します。
【目次】
レガシーシステムとは?
レガシーシステムとは、技術の老朽化やシステムの肥大化・複雑化・ブラックボックス化といった要因から「運用維持保守や機能改良が困難な状態に陥り、経営・事業戦略上の足枷、高コスト構造の原因となっているシステム」を指します。
多くの場合、レガシーシステムは基幹業務と密接に結びついており、安定稼働を最優先に設計・運用されてきました。そのため、古いプログラミング言語や独自仕様が採用されているケースも多く、外部から全体像を把握しにくい構造になりがちです。
また、業務の変化に合わせて改修を重ねてきた結果、システム構成が複雑化し、特定の担当者しか内容を理解できない状態、いわゆるブラックボックス化が進んでいるケースも少なくありません。
よくある誤解ですが、レガシーシステムそのものが直ちに問題になるわけではないという点です。安定性や信頼性という強みを持つ一方で、現在の事業環境や将来的な成長を見据えたときに、どのような制約が生じているのかを冷静に整理することが求められます。
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約6割の企業がレガシーシステムを保有している
こうしたレガシーシステムは、理論上の話ではなく、実際に多くの企業が直面している現実的な課題です。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の2025年に行った調査によると、およそ6割の企業がレガシーシステムを保有しており、中小企業よりも大企業のレガシーシステム保有率が高い傾向にあるとされています。
大企業の場合、中小規模に比べて保有しているシステムの数や規模が大きかったりするため、完全なモダン化まで移行するには数年単位で時間を要するので、比較的保有率が高い数値になっています。

レガシーシステムで生じる5つの問題点
一見、レガシーシステムが安定稼働している場合でも、運用を続ける中でさまざまな課題が徐々に顕在化していくケースがよく見られます。
これらの課題はIT部門に限った話ではなく、業務効率や意思決定のスピード、将来的な事業展開にも影響を及ぼします。ここでは、企業が直面しやすい代表的な5つの問題点を整理します。
問題点① システムのブラックボックス化
レガシーシステムでは、長年の改修や機能追加が積み重なった結果、システム全体の構造や処理内容を把握できる人が限られている状態に陥りやすくなります。設計資料が最新の状態に保たれていなかったり、仕様を理解するためにコードを直接確認しなければならないケースも少なくありません。
こうした状態が続くと、運用や改修が特定の担当者に依存しやすくなります。その結果、属人化が進行し、担当者の異動や退職が業務継続リスクにつながるほか、新しいメンバーへの引き継ぎや育成にも時間を要するようになります。若手や外部人材が関わりづらくなり、体制の柔軟性が低下していくケースも見られます。
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問題点② セキュリティリスクの増加
レガシーシステムでは、使用しているOSやミドルウェアが古く、最新のセキュリティ対策を適用しづらいケースが多く見られます。メーカーサポートが終了している環境を使い続けている場合、脆弱性が見つかっても修正や更新が行えず、リスクを抱えたまま運用せざるを得ない状況に陥りがちです。
また、システム構成が複雑化・ブラックボックス化していることで、どこにどのようなリスクが潜んでいるのかを把握しにくくなります。その結果、セキュリティ対策が部分的・場当たり的になりやすく、外部からの攻撃や不正アクセスに対して十分な備えが取れない状態が続くこともあります。
問題点③ システム障害リスクの増加
レガシーシステムでは、ハードウェアやミドルウェアの老朽化により、突発的な障害が発生しやすくなります。長期間にわたって利用されてきた環境では、想定外の挙動や性能低下が起こりやすく、安定稼働を前提とした運用そのものが難しくなるケースもあります。
また、障害発生時には、システム構成が複雑であることや、把握できている担当者が限られていることから、原因特定や復旧に時間を要しがちです。その結果、業務への影響が長期化し、通常業務に加えて障害対応の負担が現場にのしかかる状況が生まれます。
問題点④ 保守・運用コストの肥大化
レガシーシステムでは、日常的な運用を維持するだけでも多くの工数が発生しやすくなります。手作業による対応が残っていたり、設定変更やデータ修正に時間を要したりすることで、業務量に対して運用負荷が高くなるケースも少なくありません。
また、利用している技術や環境が古いことで、対応可能なベンダーや人材が限られ、結果として保守費用が高止まりしやすくなります。障害対応や個別対応が積み重なることでコスト構造が見えにくくなり、改善に着手しづらい状況が続く点も特徴です。
問題点⑤ 競争力の低下
レガシーシステムを前提とした環境では、事業や市場の変化に合わせた対応が取りづらくなります。新しいサービスの立ち上げや業務フローの変更を検討しても、既存システムの制約が先に立ち、実現までに時間がかかる、あるいは対応そのものが難しいケースもあります。
また、外部サービスとの連携や新しい技術の導入が進めにくいことで、競合他社と比べて施策のスピードや柔軟性に差が生じやすくなります。結果として、システムが事業成長の足かせとなり、環境変化への対応力や競争力の低下につながっていきます。
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モダン化を検討すべきタイミングとは?
レガシーシステムのモダン化は、明確な障害が起きてから検討するのではなく、以下のような状態が見られる場合、モダン化を検討するタイミングに差し掛かっていると考えられます。
すべてに当てはまる必要はありませんが、複数該当する場合は、現行システムを前提とした運用に限界が見え始めている可能性があります。早い段階からモダン化を選択肢として整理しておくことで、無理のない形での改善につなげやすくなります。
レガシーシステムの3つの脱却方法
レガシーシステムの課題に対する取り組み方は一つではなく、システムの状態や業務への影響度に応じて選択肢があります。ここでは、代表的なモダン化施策として「マイグレーション」「モダナイゼーション」「クラウド化」の3つを取り上げ、それぞれの考え方と特徴を整理します。
マイグレーション
マイグレーションは、既存のシステム構造は大きく変えず、稼働環境や基盤だけを入れ替える方法です。既存の業務ロジックや画面構成はそのままに、ハードウェアやOS、ミドルウェアを新しい環境へ移行します。
例えば、老朽化したオンプレミスサーバーを新しいサーバーへ置き換えたり、サポート終了が近いOSを最新バージョンへ更新したりするケースが該当します。現行業務への影響を抑えやすく、比較的リスクをコントロールしながら進められる点が特徴です。
一方で、システム構造そのものは変わらないため、属人化や拡張性といった根本的な課題が残る場合もあります。まずは環境面の老朽化を解消したい場合や、短期間での対応が求められるケースに向いた方法といえます。
モダナイゼーション
モダナイゼーションは、既存システムの機能を活かしつつ、構造そのものを見直す方法です。
マイグレーションのような移行とは異なり、アーキテクチャや技術構成を再設計し、将来的な変更や拡張に対応しやすい状態を目指します。
例えば、ひとつの大きなシステムに詰め込まれていた処理を機能単位で分離したり、古いフレームワークをより保守しやすい技術に置き換えたりするケースが挙げられます。これにより、ブラックボックス化の解消や、改修・機能追加のしやすさが向上します。
設計の見直しや検証が必要となるため、マイグレーションに比べると準備期間は長くなりますが、中長期的にシステムを使い続ける前提の場合や、業務改善・新施策を継続的に進めたい場合に有効な選択肢です。
クラウド化
クラウド化は、オンプレミス環境で運用してきたシステムをクラウド基盤へ移行する方法です。自社でサーバーやインフラを管理する必要がなくなり、運用負荷や管理コストの軽減が期待できます。
例えば、社内データセンターで運用していたシステムをクラウド上に移行し、リソースの増減を柔軟に行えるようにするケースがあります。可用性やバックアップといった仕組みを標準機能として利用しやすくなる点も特徴です。
ただし、既存システムの構造によっては、単純な移行だけでは効果が限定的になる場合もあります。そのため、マイグレーションやモダナイゼーションと組み合わせながら進めることで、自社に合った形での改善につなげることが重要です。
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ラクスパートナーズによる「レガシーシステムの刷新プロジェクト」支援事例
事例:Web決済系企業「基幹インフラ刷新・データセンターマイグレーションプロジェクト」
同社では、自社データセンターで長年運用してきた基幹システムを中心に、オンプレミス環境が主軸となっていた。安定稼働を優先する運用を続ける中で、物理・仮想・コンテナ基盤が混在し、システム構成が複雑化していた。
さらに、データセンター移設やセキュリティ要件の変更といった期限の決まった対応が重なり、既存業務への影響を抑えながら、短期間で基盤更改とマイグレーションを進める必要があった。
事例:SIer企業「Web入札システムのAWS更改プロジェクト」
同社では、オンプレミス環境で稼働していたWeb入札システムを長年運用しており、インフラの老朽化や運用負荷の増加が課題となっていた。加えて、今後の拡張性や安定運用を見据え、クラウド活用による基盤刷新が求められていた。
一方で、業務特性上システム停止の影響が大きく、既存機能を維持しながら、安全かつ段階的にAWSへ移行する必要があった。
まとめ
レガシーシステムは、多くの企業で長年にわたり業務を支えてきた一方で、環境変化への対応や運用面での課題が表面化しやすい存在です。安定稼働しているからこそ、問題が見えにくく、対応が後回しになるケースも少なくありません。
今回整理したように、レガシーシステムには保守・運用負荷や柔軟性の低下など、企業活動全体に影響を及ぼす課題が存在します。これらに対しては、マイグレーション、モダナイゼーション、クラウド化といった複数の改善策があり、自社の状況に応じた選択が重要です。
現行システムの役割や将来像を見据えながら、段階的に見直しを進めていくことが、持続的な業務改善や競争力維持につながります。






