DX推進が急務となる中、AI(人工知能)技術の活用はあらゆる業種で拡大しています。業務の効率化、コスト削減、新規ビジネスの創出など、その可能性は年々広がりを見せています。そうした中で、企業がAI導入を実現するために必要不可欠な人材が「AIエンジニア」です。
しかし実際には、
- 「AIエンジニアって具体的にどんな仕事をするの?」
- 「機械学習エンジニアやデータサイエンティストとはどう違うの?」
- 「具体的にどの職種が自社にマッチするのかわからない」
といった疑問や課題を抱える採用担当者も少なくありません。
本記事では、機械学習(ML)エンジニアをはじめとするAIエンジニアの役割やスキルセット、他の職種との違い、採用のポイントまで、ラクスパートナーズの支援内容とも合わせて、わかりやすく解説します。
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【目次】
AIエンジニアとは?
AIエンジニアとは、人工知能(AI)に関する技術を活用して、業務課題を解決する仕組みを設計・構築・運用するエンジニアの総称です。
特定の一職種を指す名称ではなく、実際には複数の専門分野・スキル領域に分かれています。
AI技術には機械学習や深層学習(ディープラーニング)といったアルゴリズムの活用が含まれ、AIエンジニアはこれらをデータと組み合わせて実務に役立てるプロフェッショナルです。
システムエンジニア(SE)・Webエンジニアとの違い
企業の開発現場では「システムエンジニア(SE)」や「Webエンジニア」もよく登場する職種です。これらの職種とAIエンジニアは、業務領域や技術的なアプローチが異なります。
職種 | 主な業務 | 技術領域 | AIエンジニアとの違い |
---|---|---|---|
システムエンジニア(SE) | 要件定義・設計・開発・保守 | 業務システム・基幹系 | ロジックは事前に決められた設計が中心 |
Webエンジニア | Webアプリの開発・UI/UX設計 | HTML/CSS/JavaScript、PHP等 | ユーザーインターフェースや機能実装が中心 |
AIエンジニア | モデル設計・学習・評価・運用 | Python、機械学習ライブラリ、MLOps | 「データに基づく判断・予測」を設計する職種 |
AIエンジニアは、ルールベースでは対応できない“予測や分類”といった不確実な問題に対して、アルゴリズムとデータでアプローチするという点で、従来型のSEやWebエンジニアとは役割が大きく異なります。
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AIエンジニアが担う工程
AIエンジニアは、以下のような複数の工程を横断的に担うケースが多いです。
- 業務課題のヒアリングと要件定義
- データの収集・加工
- モデルの設計・学習
- モデルの評価・改善
- システムへの組み込み・運用
職種によって得意領域が異なる
同じAI領域でも、実際の職種ごとに以下のような得意分野の違いがあります。
職種 | 得意分野 | 備考 |
---|---|---|
機械学習エンジニア | モデル構築・評価・改善 | 実装・精度重視 |
データサイエンティスト | 仮説検証・ビジネス分析 | 課題設定に強い |
MLOpsエンジニア | モデルのデプロイ・自動化 | DevOps+ML |
AIアプリエンジニア | 推論API・UI連携開発 | 実装+UX寄り |
機械学習エンジニア・データサイエンティスト・データアナリストの違い
以下では、AIエンジニアを構成する代表的な3職種についてご紹介します。
機械学習エンジニア
💡AIモデルを「つくって動かす」技術のプロフェッショナル
機械学習エンジニアは、AIアルゴリズムを実装し、実際にシステムの中で動かす役割を担います。AIプロジェクトを技術的に前進させる“エンジン”のような存在です。
主な役割
- 機械学習アルゴリズムを活用して、予測・分類モデルを構築
- モデルの精度向上やパラメータ調整、学習ロジックの最適化
- システムやアプリケーションへのモデル組み込み・API化・デプロイ
特徴
- Python、TensorFlow、PyTorchなどの実装技術に強み
- 数学的理解(線形代数、確率統計)とアルゴリズム理解が求められる
- ビジネス要件に基づいた“使えるモデル”をつくる技術者
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データサイエンティスト
💡データから「価値ある示唆」を導く分析の専門家
データサイエンティストは、膨大なデータを分析し、そこからビジネス課題を解決するための示唆を導き出す職種です。戦略策定や意思決定の裏付けとなる“データに基づく洞察”を提供します。
主な役割
- 業務課題の分析設計から始まり、データをもとにした仮説検証・提案を行う
- 統計解析や機械学習を駆使し、意思決定支援や業務改善案を導き出す
- 経営・事業部と連携し、AI活用戦略の設計も担うことが多い
特徴
- ビジネス課題を“問い”として定義する能力に長けている
- 数学・統計・ビジネス思考・プレゼン力を併せ持つ人材
- 機械学習モデルの実装よりも「課題の構造化」と「分析力」に強み
データアナリスト
💡データを「可視化」し、現場の意思決定をサポートする人材
データアナリストは、日々蓄積されるデータを可視化・分析し、現場の判断材料として提供する役割を担います。業務レポートやKPIダッシュボードなど、“現場に密着した支援”が中心です。
主な役割
- 既存データの可視化・レポート作成・傾向分析など
- SQLやBIツール(Tableau、Lookerなど)を用いたKPIモニタリング
- 経営層や現場部門へのレポート・改善提案のサポート
特徴
- 高度なAI技術を用いるわけではなく、意思決定を支える“解釈のプロ”
- 膨大なデータの整理や日常的な指標管理に長けている
- 分析力と同様に、わかりやすく伝える力・報告力が重要
機械学習エンジニアの参画事例
ここでは、株式会社ラクスパートナーズのAIエンジニアの参画事例を一部ご紹介します。
派遣先企業
医療AI企業
背景・課題
医療データ解析プロジェクトが進行中だったが、少数データ・クラス不均衡など医療データ特有の課題に対応できるAIエンジニアが不足し、研究開発の進行が停滞していた。
対応内容:
- CT画像と超音波画像の統合解析に対応するマルチモーダルモデルを構築
- クラスのアンバランス対策(アップサンプリング・重み付き損失関数)を実施
- Python/PyTorch/SegFormerなどを活用し、モデルの精度を大幅に向上
成果:
- 予定よりも早く研究成果を創出し、次フェーズへの移行が実現
- 医療AIモデルの実装とデータ処理改善により、プロジェクト進行が大幅に加速
データサイエンティストの参画事例
派遣先企業
大手通信会社
背景・課題
キャリア決済事業の収益構造が複雑で、事業管理に必要なデータの整理や資料作成に多大な負担がかかっており、PDCAをスムーズに回すために、膨大なデータを正しく活用できる数学的素養のあるデータサイエンティストを求めていた。
対応内容:
- 事業管理チームにデータサイエンティストが参画
- 数千万件の顧客データを分析・整理し、意思決定可能な形式へ整備
- 加盟店の料率マスターの構築や、滞納率の高いユーザー属性分析などを通じて事業課題を可視化
- データ処理・可視化・報告プロセスを「自動化(PRA導入)」し、業務効率を大幅改善
成果:
- 課題の早期把握と打ち手立案のスピード向上に貢献
- 事務作業の工数削減により、本質的な課題解決に向き合う時間を創出
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AIエンジニアの年収
AIエンジニアは、現在も需要が拡大している職種の一つであり、その年収水準も高い傾向にあります。厚生労働省が運営する「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」によると、AIエンジニアを含む情報処理・通信技術者の平均年収は約623万円とされています
(※出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(日本版O-NET))。
特に、AIや機械学習の専門性が高まるにつれて、年収レンジはさらに上昇傾向にあり、大手企業や外資系企業では年収800万〜1,200万円といったオファーも珍しくありません。
また、採用の難易度が高いことから、外部人材に業務を依頼するケースも増加しています。
フリーランスのAIエンジニアに業務委託する場合、月額単価は60万〜90万円程度が一般的であり、より高度な専門スキルを求める場合は100万円を超えることもあります。
このように、AIエンジニアは企業の競争力を高める上で重要な存在である一方で、確保にはコストと戦略的な採用・調達が求められる職種だといえるでしょう。
採用で失敗しないための「3つの見極めポイント」
AIエンジニアの採用では、「技術スキルがあるかどうか」だけで判断すると、実務でのミスマッチが起きやすくなります。
特に、AIプロジェクトは流動性が高く、技術だけでなく課題解決力や事業理解も必要とされるため、以下の3つの観点で候補者を立体的に評価することが重要です。
見極めポイント①:課題定義経験の有無
多くの企業が陥りがちなのが、「指示されたモデルを構築する人=優秀なAI人材」と思い込んでしまうことです。
実際には、現場では仕様が完全に決まっていない中で「何が問題なのか」「どのデータを使えば解決できるのか」を自ら見極めて動ける力=課題定義力が求められます。
このスキルがある人材は、要件の整理やプロジェクトの立ち上げフェーズでも貢献できます。
面接では、「どんな課題に対して、どんな仮説を立て、どう解決に導いたか」といった思考のプロセスを深掘りする質問が有効です。
見極めポイント②:運用視点の有無
モデルを作るだけでなく、それをどう継続的に使い続けられるかを考える「MLOps的な視点」を持っているかも、今後のAI人材にとって不可欠です。
たとえば、開発時には高い精度が出ていても、運用開始後にデータが変化して精度が下がってしまうケースは多々あります。
このようなモデル劣化の兆候をどう検知するか、再学習をどう設計するかといった視点があるかどうかで、AIプロジェクトの成功率は大きく変わります。
見極めポイント③:実装スキルの裏付け
Pythonを勉強している、Kaggleに参加している――という経歴は評価ポイントにはなりますが、実務で再現性のある実装経験があるかどうかは別軸で確認が必要です。
特に、自社での活用を見据えた場合、「既存ライブラリを使うだけでなく、適切にチューニング・運用できるか」が問われます。
そのためには、GitHubのコード内容や、設計思想が分かる資料の提出を依頼するなど、スキルを“言葉”ではなく“成果物”で評価する仕組みを用意すると効果的です。
よくある採用の失敗パターン
ここまで解説したAIエンジニアに関する知識がない場合、以下のような失敗パターンが多いです。
❌ ありがちなミス例
- 抽象的な求人要件(「AIを使える人」)で募集する
- PoCしか経験のない人を「即戦力」と誤認する
- MLOpsの知識が必須なプロジェクトに対して未経験者を採用
特に注意したいのは「技術的に優れている=即戦力とは限らない」という点です。
自社の課題とフェーズに合った人材を採る視点が必要です。
まとめ|採用成功のカギは「要件定義」と「職種理解」
AI人材採用の最初のハードルは、“技術理解”ではありません。
「どんな職種が存在し、それぞれ何ができるのか」を正しく理解することにあります。
その上で、
- 任せたい業務を洗い出し
- 必要なスキルをMust/Wantに分類し
- 職種を絞り込んでから採用活動を始める
こうした順番を守ることで、ミスマッチのない効果的な採用が可能になります。
ITエンジニア採用担当者に関しての調査レポート